東北大学 社会にインパクトある研究 持続可能で心豊かな社会の創造

G. 社会の枢要に資する大学

  • g4 公正社会へ
  • 小川 和孝

    小川 和孝(文学研究科)

グローバル化された市場経済での格差・諸課題への提言

現代社会はグローバル化の影響を免れることはできず、市場経済も例外ではない。グローバル化した市場経済は、高度な効率性の実現など正の側面を有している反面、技術変化(情報通信技術の進展など)、産業構造の変動(サービス産業化)、少子化と相俟って、所得・資産格差を拡大させる負の因子も孕んでいる※1。所得の一律な平等(「結果の平等」)は勤労意欲を損なうが、他方、過度な不平等も勤労意欲を削ぎ政治的不安定を生む。さらに「貧困の連鎖」に典型的に見られるように、親世代の所得の不平等は子世代の教育達成や職業達成の「機会の不平等」に繋がり、社会全般の流動性を喪失させる。このように格差拡大に伴う社会問題が今日様々に生じつつある。

東北大学は、これらの問題に対し、文部科学省グローバルCOEプログラムや本学「知のフォーラム」での海外共同研究の実績をもとに、社会学・経済学・倫理学を融合させ、社会的に容認可能な「結果の不平等」について新しい包括的な視野から検討するとともに、人間の尊厳が保持される社会、そして機会の平等が保障される社会の実現を目指す※2。

まず第1に、少子化が進行する中で経済成長過程が格差を生み出すメカニズムを技術変化の影響に着目しながら解明する。この格差生成メカニズムは、成長と格差を独立に分析してきた従来の理論では十全に解明できない。特に技術変化が、産業構造や就業構造、さらには人々のキャリア形成に及ぼす影響に注目し、こうした動態が相俟ってさらなる格差拡大に繋がっていく過程を新たに解明する。

その上で第2に、社会的に容認されえない格差を是正する方策を次の2つの側面から検討する。①「社会的に容認されえない」「社会的に容認されうる」とはいかなることかを公正性※3の視点から明らかにする。②いままで各学問分野が個々に検討してきた方策を統一的な視座から再検討し整合的な方策群を提言する。

第3に、問題の根源に立ち戻り、技術変化の方向性の再検討、人々の連帯と公共性の再構築、持続可能で融和的な共生社会の可能性の探究※4など、21世紀型社会のグランドデザインを構想し社会に提言する。

本研究を通じ、人々が自らの能力を最大限に発揮できる公正な社会実現のための見取り図を論文・著書・メディア等を通じて社会に周知する。

※1 たとえば、「平成24年版厚生労働白書-社会保障を考える-」によれば,我が国の相対的貧困率は先進国では米国に次いで2番目である。 ※2 より具体的には、社会的に容認可能な「結果の不平等」には2つの意味がある:①すべての人々が人間としての尊厳を保った生活を送れる状態と②次世代において機会の平等が保障される状態である。 ※3 公正性の視点には、①人間の尊厳と関わる正義(justice)を探究する哲学的潮流と、②資源分配の公正(fairness)を研究対象とする社会心理学的潮流がある。①哲学的潮流における現代の代表者の一人にはアマルティア・センがおり、彼の「ケイパビリティ」概念に着目すれば、個々人の可能性を実現する資源分配の在り方が重要な研究対象となる。それは人間の尊厳を保つことのできる社会と機会の平等を実現する方策にも繋がる。一方、②社会心理学的潮流では、人々が公正と判断する社会的資源(金銭や権力など)の分配原理が研究対象となる。 ※4 持続可能で融和的な共生社会の在り方を探求するためのモデル・ケースとして東北地方の社会が想定できる。

プロジェクトの概要

  • 社会的課題

    グローバル化された市場経済では、技術変化や少子高齢化と相まって人々の所得・資産の格差(結果の不平等)が拡大する傾向にある。また、親世代の結果の不平等が子世代の教育・職業に影響する機会の不平等も生じている。過度な不平等は社会の分断をもたらす可能性があり、公正な社会の実現に向けて分野を超えた議論が必要とされている。

  • 解決の方法

    本プロジェクトでは社会学・経済学・正義論を融合させ、社会変動が結果と機会の不平等に及ぼすメカニズムを解明し、機会の平等と社会的に容認可能な結果の不平等を実現することを目指す。具体的には、国際比較も視野に入れながら、(1)経済成長過程が格差を生むメカニズムの解明、(2)社会的に容認されえない格差の是正策の検討、(3)21世紀型グランドデザインの構想・提言を行い、それらを総合して社会に発信や提言を行う。

  • 東北大学の強み

    東北大学には社会学、経済学、倫理学、宗教学、歴史など格差について多面的に検討することができる厚い人材の層がある。また、21世紀/グローバルCOEや知のフォーラムにおいて、社会学と経済学等が協働して不平等について研究してきた実績がある。

  • プロジェクトの効果

    本プロジェクトは、人々が互いの尊厳を保ち、自らの意思で人生を選択して力を発揮し、自らの目標を達成できる社会の実現に貢献する。また、連帯や公共性を実現すると同時に、人々が融和的に共生する社会の構築にもつながる。さらに、本プロジェクトでは公正な社会の実現に向けて広い視野を持って産官学で活躍する人材を輩出する。

  • 組織体制

    経済学研究科や文学研究科、教育学研究科等の構成員からなる公正社会研究推進センターを中心にプロジェクトを推進する。また、国内外の研究者と連携して研究を推進し、行政や教育機関、産業などに向けて発信や提言を行う。

 
推進責任者 |  守 健二 教授(経済学研究科)
黒瀬 一弘 教授(経済学研究科)
小川 和孝 准教授(文学研究科)

活動実績・成果の概要

このプロジェクトに関するお問い合わせ

経済学研究科 黒瀬 一弘
kazuhiro.kurose.c8※tohoku.ac.jp
(※を@に変えてください)

  • A | 持続可能環境の実現
  • B | 健康長寿社会の実現
  • C | 安全安心の実現
  • D | 世界から敬愛される国づくり
  • E | しなやかで心豊かな未来創造
  • F | 生命と宇宙が拓く交感する未来へ
  • G | 社会の枢要に資する大学