東北大学 社会にインパクトある研究 持続可能で心豊かな社会の創造

D. 世界から敬愛される国づくり

  • d2 近隣国理解
  • 千葉 聡(東北アジア研究センター)

文理連携による東北アジアの新しい地域理解と課題の共有

近年、東北アジア※1は域内の相互理解の不足に起因する問題に直面している。例えば、日本では冷戦後に様々な交流が始まったロシアやモンゴルへの関心は必ずしも安定せず、また長い交流の歴史を持つ東アジア諸国については、むしろ相互不信が増大している。その一方で、ロシア・中国などに跨がる形で、環境汚染、資源開発、人口の流動など、国境を越えて共有するべき問題が深刻化している。こうした課題を克服するための地域認識の新しい枠組みが必要である。従来、アジアとしての中国や日本と、ヨーロッパとしてのロシアは別々の枠組みで研究されてきた。しかし東洋と西洋の枠組みを超えた新しい地域理解が求められている。

東北大学は、冷戦後に我が国でいち早く東アジアとロシアの統合的研究の重要性を訴え、その学際的研究の牽引役として東北アジア研究センターを設置した※2。また本学には、文学研究科、理学研究科、農学研究科、環境科学研究科など、多くの部局でアジアの文化・歴史および自然に関する基礎・応用研究が蓄積されている。これら関連する学内諸部局と協力することで、この課題に総合的に取り組む体制が構築可能である。

東北アジアは豊富な資源を含む寒冷な環境、巨大国家の統治の歴史、多様な民族集団の組み合わせが特徴である。文理連携による学際的地域理解を内外の研究者と共に紡ぎだす体制を作り上げ、国家の立場を超えた現代的課題の共有を促進したい。

具体的には三つの課題に取り組む。第一に、政治・文化的な相違・対立が目立ちがちな東北アジアを、自然史・人類史的なタイムスケールの中に置きなおすことにより、地域理解の基盤を創出する。そのため人文学と理学の学際アプローチによる寒冷地への文化適応の意義を、東北アジアの場において解明する。アフリカ起源の人類が寒冷なこの地域に到達する時、寒さの克服は大きなチャレンジであった。寒冷地適応はヒトの地球拡散の鍵であり、グローバルヒストリーの起源をつくった。そうした人類史を基盤として環境文明史的理解の共有を目指す。

第二に、東北アジアを特徴づける大国の統治と民族的多様性を、人文学と社会科学が共同する課題として考究する。中国とロシアはしばしば圧政を伴った帝国統治と権威主義体制の長い歴史をもつ一方で、少数民族や地域社会が独自の社会・文化的特徴を歴史的に持続させてきた。このような東北アジアの共生の歴史と社会対応のメカニズムを理解することは、近接する日本社会にとっても極めて重要な課題である。

第三に、現在国境を越えて共有されるべき課題として、環境エネルギー問題や環境汚染、人や文化の移動・交流の問題に着目する。これらの問題は東アジアとロシアの政治経済社会の相互作用のダイナミズムによって引き起こされるものであるが、観光のような経済効果や、黄砂のような越境する環境問題など、正負の側面をあわせもつ。その理解のためには地域枠組みとしての東北アジアは有効な概念であり、日本の戦略を考える上でも極めて重要である。

このプロジェクトは、従来の歴史と異文化理解を主とする地域研究の方法に加えて、社会科学・自然科学などの学際的知見を総合し、国際的地域研究を先導して東北大学モデルの地域研究を確立することを目的とする。文理連携による学際的アプローチで環境文明論的な地域研究を推進するなかで、東北アジアの現地研究者や、地域住民などの多くのステークフォルダーを巻き込んだ研究体制を確立する。さらにこれらを踏まえ東北アジア地域研究コンソーシアム(仮称)を構築したい。

※1 ロシア(特にシベリア・極東)、モンゴル、中国、韓国、北朝鮮及び日本を指す。 ※2 冷戦体制崩壊後の東アジアとモンゴル・ロシアとの相互理解・協力・共生の社会的重要性の高まりを受けて1996年に設立された学内共同教育研究施設(独立部局)。

プロジェクトの概要

  • 社会的課題

    近年、日本社会は近隣地域の理解の不足に起因する問題に直面している。冷戦後の関係改善が成功せず不安定な二国間交流が続き、東アジア諸国は相互不信が増大している。その一方で、ロシア・中国などに跨る形で、環境汚染・資源開発・人口流動など、国境を超えて共有するべき問題が深刻化している。

  • 解決の方法

    本プロジェクトでは東洋と西洋という枠組みを超え、東アジアとロシアを東北アジアとして捉える。そして、文理を融合した研究を行うことで、この地域の自然・文化・歴史の連続性や多様性、政治的なダイナミズムを理解し、東北アジアの新しい地域理解を確立・発信することを目指す。そのために(1)人類史的なタイムスケールによる地域理解、(2)大国の統治と民族的多様性、(3)越境する諸問題の共有の3つテーマで研究を実施し、国際的な研究体制を通じて理解を共有していく。

  • 東北大学の強み

    東北大学では、冷静終結後いち早く東アジアとロシアの統合的研究の重要性を訴え、1996年に東北アジア研究センターを設立した。それ以来、文理を超えた世界最高水準の研究を創出し、諸外国との国際連携体制を構築している。また、学内様々な部局においてアジアの文化や歴史、自然に関する基礎・応用研究の蓄積がある。

  • プロジェクトの効果

    文理を融合した東北大学モデルの新たな地域研究を確立する。また、東北アジア地域研究コンソーシアムを通じて国際的に知識を共有し、新しい地域理解を世界に普及する。

  • 組織体制

    東北アジア研究センターが中心となり、学内の部局と連携して文理融合・学際研究を行う。また、東北アジア地域研究コンソーシアムを設置し、学内外の様々な研究機関・地域と連携を行う。

推進責任者 |  千葉 聡 教授(東北アジア研究センター)

活動実績・成果の概要

このプロジェクトに関するお問い合わせ

東北アジア研究センター事務室
TEL:022-795-6009
asiajimu※cneas.tohoku.ac.jp
(※を@に変えてください)

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