東北大学 社会にインパクトある研究 持続可能で心豊かな社会の創造

B. 健康長寿社会の実現

  • b4 口から健康
  • 小坂 健(歯学研究科)

口から発信する健康づくり

古くから人々は口と心身の健康との深い繋がりを感じてきたが、口の健康と心身の健康増進・疾患予防との因果関係の系統的集積と機構解明は未達である。また、医療が健康・QOLを支える医療へと転換しているにも拘わらず、口の健康の重要性に関する社会的認知度は未だ低い。漸く近年、東北大学による鶴ケ谷研究などのコホート研究により、①歯周病等の口腔細菌性疾患による糖尿病・動脈硬化等の増悪、口腔ケアによる誤嚥(ごえん)性肺炎の発症予防・入院期間の短縮等が明らかになった。さらに②口腔の形態・機能の異常・欠損の回復、健全化に対し、本学で新規開発された機能性生体材料を活用した口腔の再生・再建医療が現実となりつつある。また③良い咬み合わせを持つ高齢者は健康寿命が長いことが示され、美味しく食べ楽しく話す口の健康が、心身の健康・QOLに貢献できることが明らかとなった。中央社会保険医療協議会も将来の歯科医療像として口の機能の回復・維持増進を通した健康モデル作りを重視している。

東北大学は、歯学研究科が中心となり、世界で初めて、歯学研究の画期となる「インターフェース口腔健康科学」※1を立ち上げ推進してきた。この科学は、口は、(A)歯・歯肉・骨等の生体組織、(B)そこに生息する膨大な種類の微生物(マイクロバイオ―ム)、(C)歯科治療後の人工材料からなる歯科医療装置の3システムから成り、その生物学的・生体力学的調和の上に健全な形態・機能が営まれると捉え、それらの間のインターフェースの解明と制御から新しい歯学研究の創生を目指すものである。

本プロジェクトでは、この特色ある「インターフェース口腔健康科学」に基づいた研究をさらに展開し、生命科学、医学、薬学、医工学、工学、材料学、臨床、さらには産業界等との連携のもと、分子生物学手法から臨床疫学、社会疫学手法までを活用して、次の研究開発を行う。

  • (1)マイクロバイオームと全身の健康・疾患との関連とその機構を解明し、マイクロバイオームとの健全な共生による口からの健康づくりと全身疾患の予防・制御を目指す。
  • (2) 歯髄・歯周組織等の豊富な細胞リソースによる再生・再建医療の実用化プロジェクトを推進し、人工材料とのハイブリット化を含めた新たな医療機器・技術を開発する。
  • (3) 単に疾病・障害の治療のみならず、健康、幸せに直結する「食べる、味わう、喋る、笑う」を保障する健康増進を推進する

このような地域社会、行政、産業界を包含した研究活動を展開する過程で、社会からのニーズに対応した研究の推進、そして国内外への情報発信、さらには「口の健康の重要性」について社会認識の向上を図る。同時に研究活動を通して、それぞれの分野で貢献しうる人材を育成し、世界展開を図る。

※1 これらインターフェースに不具合が生じると齲蝕(うしょく)や歯周病等の口腔マイクロバイオームによる疾患、義歯や歯の詰め物の劣化、顎関節症等の口腔疾患の発症に至る。また口と消化器・呼吸器間のインターフェースでは、誤嚥や全身の抵抗性低下等の不調を介し、口腔マイクロバイオームは消化器・耳鼻咽喉・呼吸器疾患の原因となる。加えて歯周病や慢性歯髄炎等の慢性感染巣は、糖尿病や動脈硬化の増悪等を通し、全身の健康と連関する。さらに近年、残存歯数や齲蝕罹患率等を指標とする「口の健康格差」は、収入や学歴等の社会的因子と高い相関を示すことが明らかになり、健康格差の是正には社会との連携が重要であることが明らかになっている。

プロジェクトの概要

  • 社会的課題

    近年、口の健康は糖尿病や動脈硬化の憎悪等の全身疾患に影響することが明らかになってきた。また、口は会話や表情、食事に関わるため、精神的・社会的にも重要である。しかしながら口の健康に対する社会認識は低く、科学的にも口と心身の健康の関係性は十分に解明されていない。

  • 解決の方法

    本プロジェクトでは口から発信する健康づくりを実現し、心豊かな健康長寿社会を構築することを目指す。そのために東北大学が提唱し、口の健康を分野を超え全身の健康や社会との関わりも含めて捉えることができる学問、「インターフェース口腔科学」を発展させ、(1)マイクロバイオームによる疾患予防・制御、(2)再生・再建医療の実用化、(3)口からの健康・幸福の増進という三つの研究開発テーマを推進する。同時に、口から発信する健康づくりを支える社会構築と人材育成を行い、世界に展開する。

  • 東北大学の強み

    東北大学では歯学研究科が世界に先駆けて「インターフェース口腔科学」を提唱し、これは新たな歯学の世界的基盤になっている。また、歯学研究科にはニーズに合った異分野融合研究を実施する研究体制がある。歯学に加え、生命科学、工学、医学等の研究者の層も厚く、新たな分野を切り拓き、時代の要請に応えられる柔軟な研究体制がある。

  • プロジェクトの効果

    プログラムの推進を通じ、全身の疾患予防と健康増進を実現して健康長寿社会の構築に寄与する。さらに、食感や味を楽しみ、会話し、豊かな表情で過ごせるようになることを通じ、人々に生きる喜びをもたらす。そして、これらの効果は世界に展開する。

  • 組織体制

    歯学イノベーションリエゾンセンターを中心に、歯学研究科内の講座・部門、センター、さらには医学系研究科や医工学研究科などの学内部局が共同し、国内外の研究機関や自治体、省庁、企業、職能団体等と連携しながらプロジェクトを推進する。

推進責任者 |  小坂 健 教授(歯学研究科)
北澤 春樹 教授(農学研究科)

活動実績・成果の概要

このプロジェクトに関するお問い合わせ

歯学イノベーションリエゾンセンター
TEL:022-717-8419
liaison※grp.tohoku.ac.jp
(※を@に変えてください)

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