東北大学 社会にインパクトある研究 持続可能で心豊かな社会の創造

D. 世界から敬愛される国づくり

  • d5 ものづくり
  • 長坂 徹也(工学研究科)

優れたものづくり日本を活かす戦略と体制

正解が分かっていた時代、知識偏重・効率性重視の教育に支えられ、日本の優れた技術力は目標に向かってその力を存分に発揮した。しかし基本的な必要性が満たされ、さらに何を作ればいいのか不透明になった現在、高度経済成長期以降の仕組みが制度疲労を起こしている。高度な技術力を顧客の求める価値に繋げるためには、作ったものを売れる商品とするマーケティング力、企画力、概念化力を基礎とした深い洞察力や新たな商品コンセプトによる製品シェアの延伸が必要になる。このことは、日本企業全般に当てはまるが、特に優れた技術力を持つ下請け部品メーカーにとっては、脱下請けの道を切り拓く好機にもなりうる。

一方、急激な人口減少に伴い国内需要が減退する中、日本のものづくりは、グローバル市場での需要に応えることが求められるが、グローバル市場は顧客ニーズが多様でその変化も激しく、新製品も急速に成熟化・陳腐化する上、コスト競争力を維持することも難しい。これは、新製品開発リスクが増大することを意味し、従来とは異なる技術開発・製品開発の戦略と体制が求められている。

さらに、あらゆるモノがインターネットに繋がるIoT の進展に伴い、製造業の様相が根本的に変わり、マス・カスタマイゼーションが可能となるとともに、製造コストの大幅な削減を主眼におくスマートファクトリーへの取組みも始まった。またビッグデータ解析およびAI技術の製品開発への活用も期待されている。このような急速な環境変化により、かつて威力を発揮した日本のものづくりは構造的な課題に直面し、難しい舵取りが迫られている。

このような中、我が国として、ものづくりを価値創造※1に繋げるための戦略とマーケティング力、企画力、概念力、実行力等を兼ね備えた人材教育が求められ、これを如何に構築していくかが大きな課題である。すなわち、顧客を起点とする製品コンセプトデザインと経営戦略を、未来を見据えて設計し実践できる人材と先端的試作の場が必要である。

東北大学は、創立以来の「実学尊重」の理念に基づく強みを活かし、工学研究科技術社会システム専攻が中心になり、経済学研究科の強力な支援体制の下、価値創造に繋げるためのものづくりの戦略と体制および教育方法はいかにあるべきかを明らかにする。その上で、大学研究者・学生・企業技術者が未来の産業創造とものづくり経営の変革に向かうための方法を策定し、協働企業とともにその実現を目指す。具体的には、

  • (1)産学連携インフラの構築:ソフトインフラとして問題意識を共有する企業との共同研究講座や対話の場※2、ハードインフラとして産学一体となったオープンラボ、事業化を企図した「先端的試作研究」の場や産学共創の場※3を構築し、優れたものづくりに関する戦略を描くとともに、技術的・経営的側面からの支援を行う。
  • (2)急速な環境変化に対応できる技術・製品戦略と体制に関する研究:日本の優れたものづくり技術と技術者の矜持を価値創造に繋ぐ(結びつける)ため、グローバル市場での最先端の技術・製品戦略と体制の在り方を大学主導で策定し、発信する。
  • (3)ものづくり戦略人材の教育:(1)、(2)を活用して実施するPBL教育をもとに、新しい概念のものづくりと社会変化に対応する戦略に挑戦できる人材の発掘と育成の方法を策定し、実践する。

こうして、経営感覚を身に付け、かつ、技術・製品開発の戦略を構築できる企画力豊かな人材が、組織内外と協働して、ブランド力の高い優れたものづくりの戦略と体制を我が国に根付かせるとともに、得られた方策と知見を新興国を含めた諸外国に向けて発信し、敬愛される国づくりに貢献する。

※1 価値創造とは、「人の豊かな未来と幸福に資するものづくりとはいかなるものであるべきか」という問いを何よりも大切にする、ということに基づく。 ※2 産業競争力懇話会(COCN)のような対話の場を想定する。 ※3 産学連携センター(仮称)を想定し、ものづくりのマーケティングを共同で実施する。

プロジェクトの概要

  • 社会的課題

    グローバル化時代のものづくりは、機能的価値を高めてもすぐに技術レベルが追い付かれ、安いコストでシェアを奪われやすい。一方、日本は高い技術力により高付加価値の製品を開発しており、機能的価値のみに頼らない新たなものづくり体制を構築すればシェアを拡大できる力がある。今後はそのような製品開発を実現する人材教育や体制を構築し、さらにはエネルギー問題等の社会的課題にも対応していく必要がある。

  • 解決の方法

    本プロジェクトでは製品に対する顧客や社会の価値に注目し、価値を創造するものづくりを行うコンセプトデザインと経営戦略の教育・研究を通じて、日本のものづくりの国際競争力を向上することを目指す。基礎研究から社会実装という従来のリニアな開発モデルではなく、価値を創造するスパイラルアップモデルによる製品開発フローを構築することで、コンセプトデザイン実現に向けた(1)戦略と体制の研究、(2)人材教育、(3)産学連携インフラ構築を行い、価値を創造するものづくりの方法の策定と推進を行う。

  • 東北大学の強み

    東北大学は「実学尊重」の理念のもと、多様な研究人材や東北大ビジネス・インキュベーション・プログラム、産学連携ネットワークなどがあり、研究開発リソースが揃っている。さらに、産学連携インフラの構築を進めおり、資金面でも戦略的研究スタートアップ支援やTHVP-1号投資事業有限責任組合の支援もあり、実装に向けた体制がある。

  • プロジェクトの効果

    ブランド力の高いものづくり戦略と体制を日本に広めることで、日本のものづくりの国際競争力を向上する。また、経営感覚を身につけ、企画力豊かな人材を輩出する。また、本プロジェクトで得られた知見を世界に向けて発信し、敬愛される国づくりに貢献する。

  • 組織体制

    工学研究科技術システム専攻や経済学研究科が担当部局となる価値創造センターが中心となって、地域・行政や産業界と連携しながらプロジェクトを推進する。

推進責任者 |  長平 彰夫・長坂 徹也(工学研究科)
柴田 友厚(経済学研究科)

活動実績・成果の概要

このプロジェクトに関するお問い合わせ

工学研究科工学系研究企画室
TEL:022-795-7249

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