東北大学 社会にインパクトある研究 持続可能で心豊かな社会の創造

G. 社会の枢要に資する大学

  • g3 人と法政治
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    樺島 博志(法学研究科)

人類社会の将来のための新たな理念の法学・政治学的定立

現代日本をとりまく国際社会は、アメリカの主導的地位の相対的低下と民族紛争の激化※1、経済のグローバル化にともなう中進国の罠、貧富の格差、少子高齢化と個人のアトム化※2、といった複雑かつ不確実な問題群に直面している。こうした現代社会の問題群を的確に把握し、解決のための選択肢を提示するためには、とりわけ、法学・政治学の分野からの総合的なアプローチが不可欠である。すなわち、家族、地域社会、国家※3、そして国際社会にいたるまで、人間が他者との共同生活を営む諸条件と諸課題を、法学・政治学的に的確に把握し、課題解決のための法制度と公共政策を総合的に立案することこそ、法学と政治学に期待される研究の到達目標である。

近代社会の基本理念※4は、個人の尊厳、主権国家の自律、国家間秩序の確立に集約できる。これに対し、今日の国際社会の状況では、個人の孤立化と脆弱化、グローバリズムによる国家的枠組の相対化、国家間ではなく価値観の相違から生ずる文明の衝突といった点において、近代社会の理念の成立条件そのものがゆらいでいる。こうした状況下において、人類社会の将来に向けて掲げるべき理念とは、①個人の精神的物質的存立基盤の確立、②国際社会における個人の多様な価値の承認、③主体的個人からなる自律的共同社会の確立、④世界全体として多様な個人と多様な共同社会を包摂する開かれた社会の形成といった、いずれも一個の人間の位置づけをめぐる議論を中心軸に展開されることになろう。すなわち、本プロジェクトの掲げる統制的理念は、一人ひとりの人間が、国際社会のなかで、精神的物質的な豊かさを享受できるようになるという意味での、「ユニバーサル・プロスペリティ」である

西欧の学問的伝統においては、近世啓蒙主義に始まり、近代社会科学が確立した19世紀末以来、広義の未来学が、常に将来社会の進むべきヴィジョンを提示してきた※5。他方、これまでの日本の法学・政治学は、社会の高度化と国際化に対応して、専門分野の細分化と高度化※6が進行する一方で、現代社会の全体像の混迷と混乱については、適切に対処できないままできた。東北大学は、法学研究科が中心となり※7、包括的な課題解決のための政策立案という研究目標を達成するために、人間論、家族論、地域社会論、法治論、企業論、国際社会論、東アジア論、米州論、欧州論の九つの課題領域を設定したうえで、これらの課題領域における個別の研究成果を総合することによって、人類社会の将来にわたるグランド・ヴィジョンを提示し、社会に発信する

※1 アメリカ的理念による指導力(ヘゲモニー)の低下がイスラム原理主義との文明の衝突を惹き起こしている事態を指す;参照:I.ブレマー『Gゼロ後の世界』日本経済新聞社2012;I.ブレマー『文明の衝突』集英社1998. ※2 経済のグローバル化にともない、貧富の格差の拡大と少子化が進行し、巨大都市の繁栄が地方の衰退を招き、 BRICSなどの中進国における経済成長と環境・福祉との不整合といった広義の成長の限界を露呈している;参照:水野紀子編『社会法制・家族法制における国家の介入』有斐閣2013;増田寛也編著『地方消滅』中公新書2014;Th.フリードマン『フラット化する世界』上下、日本経済新聞社2008;D.H.メドウズほか著『成長の限界』ダイヤモンド社1972. ※3 「国家」という概念は、権力に着目すれば政府と同義の概念として理解することができるが、むしろここでは、部分社会に対する全体社会という意味を含め、市民社会としての包括的な人間の共同生活を形作る統一体という広い意味で用いることとする。 ※4 近代の基本理念は、I.カント『永遠平和のために』における啓蒙主義の統制的理念(regulative Idee)に示されている。すなわち、カントは、「永遠平和(Der ewigeFriede)」を中心概念として、人間の個人としての尊厳、自由平等な個人からなる国民国家の形成、国際法による国家間の平和を、来るべき人類社会の理想として掲げた。 ※5 広義の未来学に属するものとして、上記註1~2で取り上げた I.ブレマー、I.ブレマー、Th.フリードマン、D.H.メドウズのほか、現代の道徳的見地からの評価は様々であるものの、O.シュペングラー『西洋の没落』、A.J.トインビー『歴史の研究』、A.トフラー『第三の波』などを取り上げることができる。 ※6 ここでの専門分化と高度化にあたる重要な領域として、法学・政治学のなかでは、金融商品取引法、倒産法、税法、競争法、知財法、また、ゲーム理論、計量政治過程分析などの分野をとりあげることができる。 ※7 本プロジェクトを担当する東北大学法学部・法学研究科は、「研究第一主義」「実学尊重」に定位し、「理論と実務の架橋」を理念として掲げ、小田滋・国際司法裁判所長官、藤田宙靖・最高裁判事、尾崎久仁子・国際刑事裁判所副長官ら、世界最高水準の研究者を輩出してきた。本研究科のスタッフを中心としたプログラム担当者も、世界的水準の第一線の研究者である。しかも、法学研究科は、研究大学院のほか、法科大学院と公共政策大学院の二つの専門職大学院を擁するので、本プロジェクトの研究成果は、大学内での研究のみならず、法曹実務家や中央・地方政府官僚ら修了生による法務・政策実務を通じて、即効的かつ直接的に、社会に還元することができる。

プロジェクトの概要

  • 社会的課題

    現代社会は、貧富の格差、少子高齢化などのなか個人の孤立化が進行し、経済のグローバル化にともなう国家的枠組みの相対化、価値観の相違による文明の衝突といった問題群に直面している。法学・政治学は人間社会に多様に生起する利害の対立を平和裏に解決することを目指す実践的な学問であり、専門分野の細分化・高度化の問題を超えて社会課題の全体像を把握し,現代日本と国際社会の将来像を見通す必要がある。

  • 解決の方法

    本プロジェクトでは一個の人間の位置づけをめぐる議論を中心軸に据え、個としての人間存在から同心円に広がる課題領域に即して9つの課題群を設定し、それらの研究を統合して法制度・公共政策を立案することで、一人ひとりの人間が精神的物質的豊かさを享受する全世界の繁栄(ユニバーサル・プロスペリティ)を実現することを目指す。そのために理論的解明と政策提言の両面から人類社会の統一的な将来像を描き出し、成果を発信する。同時に、上記目標を共有する高度専門職業人を育成し、社会に輩出する。

  • 東北大学の強み

    東北大学法学部・法学研究科は、「理論と実務の架橋の理念」を掲げ、研究を推進してきた。世界の第一線の研究者と実務家を有し、小田滋・国際司法裁判所長官ら世界最高水準の研究者を輩出してきた。また、法学部、研究大学院、法科大学院、公共政策大学院を通じて次世代を担う人材育成ができる体制が整っている。

  • プロジェクトの効果

    分野を超えた成果の統合、総合的な人類社会のグランド・ビジョンの策定、そしてその実現に向けた法制度と公共政策を立案・発信することで「ユニバーサル・プロスペリティ」を実現する。

  • 組織体制

    東北大学法学研究科法政実務教育研究センターを拠点として、法学部・法学研究科の構成員を中心に国際機関や国、産業界等と連携しながらプロジェクトを推進する。

推進責任者 | 樺島 博志 教授(法学研究科)

活動実績・成果の概要

  • A | 持続可能環境の実現
  • B | 健康長寿社会の実現
  • C | 安全安心の実現
  • D | 世界から敬愛される国づくり
  • E | しなやかで心豊かな未来創造
  • F | 生命と宇宙が拓く交感する未来へ
  • G | 社会の枢要に資する大学