東北大学 社会にインパクトある研究 持続可能で心豊かな社会の創造

A. 持続可能環境の実現

  • a3 エネルギー
  • 土屋 範芳(環境科学研究科)

エネルギーの新しい価値観創造と展開

人口増加と物質的豊かさへの希求増大によって、世界的規模でエネルギー需要が高まっている。一方で地球温暖化抑止のための二酸化炭素排出量の削減が喫緊の課題となっており、化石燃料や原子力に強く依存したエネルギーの多消費型社会構造からの脱却に人類の英知が強く求められている。

わが国のみならず世界において、こうした課題を解決し、活力を失うことなく持続可能な社会を実現するためには、エネルギー需要を絶対視してそれに見合う供給量を産み出す研究開発を目指すことだけでは不十分である。すなわち、これまでのエネルギー関連の研究を活かしつつ、再生可能エネルギー開発、分散性の高度化※1ならびに地産地活を推進し、さらに生き方と関係するエネルギーの選択などを含む、「エネルギーの新しい価値観」※2の創造・展開を視野に入れた新しい観点の研究とその成果の社会実装が不可欠である。

そこで東北大学は、歴史ある伝統と実績に立脚し、「東北大学エネルギー総合研究センター」(仮称)を基軸に、確固たる研究基盤、豊かな研究者ネットワーク、活力に富む優秀な学生、ならびに東北地方の豊かな自然環境と文化的背景の特長を活かし、全学のエネルギー研究を統括し研究成果を具体的に社会実装していく。本センターは、エネルギーの量、質、時間応答性、および社会受容性を包含したエネルギーに関する学術基盤となる「エネルギー価値学」※3創生のために学内の強固な連携を図り、エネルギー研究の国際拠点として確かな学術基盤を確立するとともに、多様な社会が持続的に発展しつつ人々が心豊かに暮らす、新たなエネルギー価値観に基づいた社会の構築を目指す。

東北大学エネルギー総合研究センターは、「エネルギー価値学」構築に向けて、理想とする持続可能社会からバックキャストして、その社会実現のために必要となる目標値(Factor of X)※4を設定し、エネルギー研究を戦略的に推進することで、技術ばかりでなく、人文・社会科学の知見をも含む新たなパラダイムを創出する。同時にこれを実証するため、活力を上げながらエネルギー需要量を半減化させる試み(Halve Demand)を学内で推進する。創生される「エネルギー価値学」に基づき、学術の社会実装と地域の成長を重視した地域新生・産業創造の実践までも包含した「東北大学エネルギーモデル」を提案し、このモデルを地域・日本・世界へと展開する。

※1 「分散性の高度化」とは、エネルギーの需要と供給の多様化に対応して、両者間のミスマッチを解決し適材適所のエネルギー需給を図る技術や手段の高度化を言う。季節毎の熱需要や、昼夜の電力需給のギャップを解決する「時間的シフト」、需給地間のミスマッチを、エネルギー源の可搬性やエネルギーキャリアにより解決する「空間的シフト」の2つからなる。 ※2 「エネルギーの新しい価値観」とは、単純な量の充足や経済的合理性といったエネルギーに関する従来的な価値基準ではなく、適切なエネルギーの使い方によってもたらされる心の満足度、生き方、エネルギー源の選択などに関わる新しい価値観のことを指す。そこでは、エネルギー源、時間や空間的な分散性、地産地活の程度、地球環境への影響などを自らの意志で選択できることがもたらす心の満足度が重視され、More is betterからEnough is bestへの転換が目指される。それはまたエネルギーの需要と供給を適正化し、エネルギー消費量を健全に減少させることは、経済の縮小ではなく、経済的発展を維持しつつ、心の豊かさを向上させる最善の方策であるとする世界観を創出することでもある。 ※3 「エネルギー価値学」とは、エネルギーの源、その変換・利用・再生、そしてあるべき将来像までの全てを、エネルギーの「量」「質」「時間応答性」の3つの自然科学的基準とエネルギーの「社会受容性」という人文・社会科学的基準からなる「4つの基準」で総合的に俯瞰する学問であり、持続可能な社会に向けた基軸を提供するため東北大学が新たに提唱するものである。 ※4 “Factor of X”とは、持続可能でこころ豊かな理想社会を実現するために、目指すべき社会像や将来期待できる技術体系からバックキャストして、個々の研究分野が定める理想的な目標値(X)のこと。目の前の課題の目標値でなく、全体を俯瞰して、全体の目標を達成するために定める必要な個々の目標値のこと。例えば、活力を上げながらエネルギーを半減化する(Halve Demand)目標の達成には、どのエネルギーパスの効率を上げるか、いずれの研究成果をどれだけ向上させるかを決めていくが、このようにして決定される目標値を指す。

プロジェクトの概要

  • 社会的課題

    現代社会はエネルギー多消費型社会である。温暖化抑止のためにはエネルギー多消費型 社会を脱却し、CO2 排出量を削減する必要がある。これに合わせ、エネルギー研究も多 消費型社会に合わせた研究開発のみならず、持続可能社会のなかで価値ある需要を支え る研究へと展開し、社会と研究の溝を埋める概念や体制を構築する必要がある。

  • 解決の方法

    本プロジェクトでは持続可能社会の基盤となる「エネルギーの新しい価値観」創造に向 け1)エネルギー価値学の創生を行う。さらに、エネルギー価値学の成果を踏まえ、エネ ルギー研究を地域新生や産業創造につなげる2)東北大学エネルギーモデルの構築・実 践・展開を行う。東北大学エネルギーモデルの実践では、まずは2030 年の東北大学の エネルギー需要量を2015年の半分にする試みを実施し、そこで得られた成果を東北地 域、日本、世界へと展開する。

  • 東北大学の強み

    東北大学は幅広い研究分野を有する総合大学であり、理工系のみならず人文・社会系まで 含めた融合研究を行うことができる。また、実学尊重の理念のもと社会を変革する研究を 行ってきた歴史と実績がある。さらに、東北地域は自然豊かで忍耐強い人間性を持ち、少子 高齢化と災害復興に取り組む課題先進地域であり、東北で研究・実装を行う意義が大きい。

  • プロジェクトの効果

    エネルギー価値学を創生し、持続可能社会を支える新たな価値観を生み出す。また、新 たな価値観を基盤に、地域の地理的・文化的背景を活かしたエネルギー生産と産業振興 を行い、地域を活性化する。こうして、持続可能で心豊かな社会を構築する。

  • 組織体制

    東北大学エネルギー総合研究センター(仮)が中心となって東北大学学内の人文・社会 系から理工系の幅広い部局を統括し、分野融合的で確かな学術基盤を確立する。また国 際機関、行政、企業、市民などとも連携し、研究推進と社会実装を実現する。

推進責任者 |  吉岡 敏明 教授(環境科学研究科)
土屋 範芳 教授(環境科学研究科)
丸田 薫  教授(流体科学研究所)
折茂 慎一 教授(金属材料研究所)

活動実績・成果の概要

このプロジェクトに関するお問い合わせ

環境科学研究科 環境研究推進センター
副センター長 大庭雅寛
masahiro.oba.b1※tohoku.ac.jp
(※を@に変えてください)

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