現代社会は、物質的豊かさを希求するあまりに地球環境問題を引き起こし、加えて、地球規模での産業構造・社会構造の急激な変動によって、様々な格差を生み出し健全な競争環境を失わせるなど、深刻な混迷状態にある。消費による豊かさと利便性を追求しそのための効率向上を優先したことで、人類が穏やかに自然と共生しながら長年築いてきた共感や連帯という「心の豊かさ」が失われ、その喪失がもたらす苦悩は、ときに過激な排外主義をも生じさせ、多くの人々が将来への不安を覚えるまでになっている。近代化以降、ひたすら成長を求めてきた現代文明は、成長の限界という課題を指摘されて久しいが、今日では「地球や社会の持続可能性」さえ、もはや自明視できない大転換期を迎えている。
これらの問題の根本的な原因のひとつは、人類の幸福に多大に貢献してきた科学技術が、その成果を産業と結び付け社会に広く応用展開するにあたり、ときとして、短期的な視野のもとで当座の利益を優先したことにあるだろう。本来なら、人文社会科学ともども、長期的な観点から後代への広範な影響を考慮すべきであったにもかかわらず、その果たすべき責務が疎かにされてきた。こうして、産業革命以降徐々に累積してきた様々な歪みが、近年になって地球規模で顕在化してきたわけである。科学技術のみならず人文社会科学を含めた学問そのものも、専門性を一層高度化させる傾向にあるが、そのため、それらが応用される社会との隔たりが増大しつつある。こうした深刻な状況にあっても、人類はなお、本来備わる明哲な眼差しとこれまで蓄積してきた学術的な英知を結集し、学問の本来的な意義を絶えず問い続けることを通して、これらの課題解決に当たるほかはない。専門分野を超え、人類社会の全体像を、その将来を含めて俯瞰する、統合的な研究の推進が強く望まれているのである。
「人類と社会の発展への貢献」を使命とする東北大学は、従来のように基礎研究を重視するとともに、上に挙げた諸問題の解決に加え、未来を豊かにする創造的課題に真正面から取り組むため、「社会にインパクトある研究」を新たに立ち上げるものである。大学には元来、社会の一員として、公正で夢のある平和な未来社会を創るため、学術を礎として長期的視点から課題の本質的な解決を目指すという使命があるが、それと同時に困難な課題に挑戦する気概と能力と倫理観をもつ人を育成するという責務がある。新しく目指す本研究体制では、こうした科学者の使命と大学の責務を自覚し、長年の基礎研究で培ってきた本学の英知と強みを結集して、これまでの研究体制の不備を見直しつつ、体系的に整理された諸課題に応えるべき個々のプロジェクトの理念を高く掲げ、社会を先導しうる創造的な視点からその実現を図る。
東北大学は、これらのプロジェクトを、研究者個人としてはもとより組織として、また国内外の他学術機関・行政機関・産業界や社会とも連携して、数十年先を見据えて長期的に推進する。そこでは、自然との共生など人類のあるべき姿を根源的に探究するとともに、新たな、また日本ならではの価値観・世界観をも創出し、その成果を、まず人口減少著しい地元東北へと普及浸透させるとともに、さらには日本から世界へと展開し、世代を超えてその意義を伝え、「持続可能で心豊かな社会」を創造し、新たな文明の構築を目指すものである。
平成29年(2017年)3月21日教育研究評議会承認