いま世界は、環境問題をはじめとして、資源枯渇、人口急増、貧困および紛争などの深刻な諸問題を抱えており、これらが人類に大きな不安を与えています。一方日本は、それに加えて、資源輸入依存、少子高齢化、社会保障費の増大、医療格差、および地方都市消滅など多くの深刻な事態に直面しており、これらを解決し克服することが緊急の課題となっています。このような社会的課題に対処し、これを解決するには、もはや研究者個人の短期間の取り組みでは困難であり、既存の学問分野に捉われず多様な知を結合した長期的かつ組織的な取り組みが不可欠です。
東北大学は建学以来、1世紀以上の歴史を有する総合大学として、「研究第一」、「門戸開放」、「実学尊重」の理念を掲げ、「知の創造体」として優れた人材、数多くの研究成果を世に送り出してきました。しかし従来型の研究では、研究シーズに基づき研究テーマを決定し、そこから研究成果を創出することが多く、またその成果の社会実装は、研究者個人の意思や努力に任される場合が多く容易ではありませんでした。確かに、社会が期待する大学の役割の一つに「基礎研究」があることは変わりません。しかし、今後、大学が社会の期待に応えて社会的課題を解決するには、従来型の研究の進め方のみならず、社会的課題に対し本学の基礎研究の伝統と強みを戦略的に結集し、「長期的なグランドデザイン」を立案した上で、継続して研究を推進していく必要があります。
「社会にインパクトある研究」では、このような視点に立ち、「持続可能で心豊かな社会」創造のため、東北大学の強みを活かし複数の分野を融合し新領域を開拓して、社会的課題に応える戦略的な研究とその社会実装を推進します。
この「社会にインパクトある研究」の最大の特徴は、「持続可能で心豊かな社会」の創造のため、解決すべき社会的課題に合わせ、本学の基礎研究の伝統と強みを活かし、課題解決に至る理念と「長期的なグランドデザイン」を策定することにあります。推進の流れは以下のようになっています。
1社会課題の分析とグループテーマ設定
現代社会が抱える様々な課題を分析し、東北大学が解決に貢献すべき課題として次の7つの大きなグループテーマを抽出しました。
A. 持続可能環境の実現
科学技術の発展とともに世界的にエネルギー消費量や二酸化炭素排出量が増加しています。さらに環境破壊や資源枯渇が人類にとって未だかつてない深刻な問題となってきていることから、持続可能環境の創造を目指します。
B. 健康長寿社会の実現
日本は世界で最も少子高齢化が進行し、社会保障費も大きく膨らんでいます。健康寿命を延伸しつつ、医療費削減などにより医療格差を是正し、国際社会に先駆けて豊かな長寿社会の創造を目指します。
C. 安全安心の実現
近年、国内外で深刻化している大規模な自然災害への防災対策、社会資本であるインフラの整備充実策、感染症の世界的流行への対策、放射性廃棄物の安全化対策などの検討により、安全・安心な社会の構築を目指します。
D. 世界から敬愛される国づくり
資源や食糧の多くを輸入に依存する日本は、科学技術を活かした内外の産業の発展を継続する必要があります。また、世界から共感される日本の思考様式・文化を発信し、紛争など世界が抱える課題解決への貢献も望まれます。さらに優れた科学技術の創出によって、世界から敬愛される国づくりを目指します。
E. しなやかで心豊かな未来創造
日本は地方の人口減少・高齢化が著しく、地方都市の消滅が問題となっています。まずは東北地方の産業や農業の活性化の方途を探究し、東北から始めて「良く生きること」の適切な施策を具体的に提言し、長寿で心に豊かな光を灯す未来の創造を目指します。
F. 生命と宇宙が拓く交感する未来へ
最小限のエネルギーを使って精緻な構造と高次な機能を創り出す生命の秘儀に学び、「太陽系の進化学」という視点から宇宙の理解と開拓を推し進め、生命と宇宙が拓く交感する百年先の未来を目指します。
G. 社会の枢要に資する大学
我々が直面する社会課題の多くは、科学技術の急速な発展が一因であることは否定できませんが、その解決には科学技術の適切な活用が欠かせません。こうした状況で、教育・研究を中心に大学が行うべきことを熟考し、社会課題の解決を可能にする大学を現実化し、「持続可能で心豊かな社会」の創造を目指します。
2プロジェクトの立ち上げ
これら7つのグループテーマに合致する学内研究者を集結し、30のプロジェクトを立ち上げました。そして各プロジェクトの推進責任者を中心に議論を積み重ね、社会的課題の解決に向けた研究と社会実装の理念とグランドデザインを策定しています。
3グランドデザインの遂行
東北大学を中心に、国内外の研究機関や産業界、政府自治体、金融機関などと連携しながら各プロジェクトのグランドデザインの実現を継続的に目指します。さらにプロジェクトで得られた研究成果は、社会実装していきます。
4成果の普及と社会貢献の実現
プロジェクトの成果を国内外に広げ、「持続可能で心豊かな社会」の構築につなげます。
この「社会にインパクトある研究」の各プロジェクトは、「社会にインパクトある研究拠点」推進室のアドバイザーチームからの支援の下で立ち上げられ、推進責任者らが解決すべき社会的課題の解決に至る「長期的なグランドデザイン」を作成します。
その後も、引き続き「社会にインパクトある研究拠点」推進室によって国際的な研究拠点となって社会的課題に応える戦略的研究を積極的に推進することを目指し、拠点形成、進捗管理及び支援体制の構築が行われます。